【シリコンバレーの投資家に学ぶ問いの力】パート1
シリコンバレー最強の投資家、ベン・ホロウィッツ氏の著書『HARD THINGS』は、資金難、株価急落、レイオフなど自身の壮絶すぎる体験を描き、日本でも多くの起業家、経営者、ビジネスパーソンから大きな支持を得ました。
2015年に発売され、ベストセラーになったので、読んだ方も多いと思います。
同時にこの本は、正しい問いを正しいタイミングで持つことの重要さを教えてくれています。
この本を題材に「問いの持つ力」を3回に分けてお伝えしたいと思います。
ケース1)「おそろしく高くつくものは何だと思う?」
これは、ベンが当時シリコンバレーのベンチャーで毎日働き詰めていて、さらに二人目の子どもが自閉症と診断され、十分なお金もないためエアコンも買えず、40度の暑さの部屋の中で3人の子供たちが泣き続けていたときに、実家のお父さんが訪ねてきてベンに尋ねた質問です。
この質問にベンが「わからない」と答えたところ、「離婚だ」とお父さんが答えます。
その結果、このジョークは全くジョークではなく、このままでは時間切れになってしまうのを思い知らされたと彼は書いています。その時まで自分は本当に真剣に選択をしたことがなかったと。自分には無限の時間と無限の能力があって、やりたいことは何でもできるとぼんやり考えていたそうですが、お父さんのこの問いのおかげで、このままでは家庭まで失いかねないと気づき、もっとも大切なことを忘れていたこと、そして、自分がしたいことではなく、何が大切なのかという優先順位で、世界を見ることを初めて学んだそうです。
そして、彼は翌日この会社を辞め、別の会社に転職し、家庭生活を正常化するための行動をします。家族にとって一番良いことは何かを考えるようになり、自分がなりたいと思っていた人物像に一歩ずつ近づけるようになったと書いています。
ケース2)「もし資金が自由になるなら、どう会社を経営するか?」
ベンはベンチャーキャピタルのアンディーから、こう質問されます。この時、同じように資金豊富なライバルよりも先に大きくなって、市場を支配しよう、という意図がありました。
“この問いは起業家に尋ねるには危険すぎる。太った人に「もしアイスクリームの栄養価がブロッコリーと同じだったらどうする?」と聞くようなものだ。この質問が引き起こす考えは、著しく危険なものになりかねない。もちろん私は危険な質問に答えて、突っ走った。”
上記のように、目的や制限がない質問は、限りなくパフォーマンスを発揮することを方向付けます。
ブレーキなしでアクセルを踏みっぱなし、ロケットエンジンのような爆発力のイメージです。その結果、会社は驚異的なスピードで成長しました。
どのくらい驚異的かというと、従業員の数が当初9人から、月30人のペースで採用し続け、半年間で200人に増え、設立から7か月目で1000万ドル(約11億円)分の契約を受注し、9か月で2700万ドル(約30億円)の新規契約を結ぶほどに成長しました。
しかし、もしこの質問が、例えば、「売上げを5倍にするために、これからの半年間で資金が自由に使えたら?」と問われたらどうでしょうか?
その結果はまるで違うものになるでしょう。
なので、欲しい結果によって問いを変える必要があるということです。
ケース3)「起きうる最悪のことは何か?」
ベンがピンチに立たされて眠れない日々を送っていたとき、なんとか自分の気分を高めようと自問した質問がこれ。答えは“「倒産し、母を含めて全員の財産を失い、ひどい不景気の中で一生懸命働いてくれた人たちを全員レイオフしなければならず、私を信じてくれた顧客全員が困難に陥り、私の評判は地に堕ちる」。もちろん、その質問で気分が楽になったことなど一度もなかった。”
最悪の状態の時に、さらに最悪の状況を考えても、気分が上向きになることはありません。
といっても、自分を慰めても効果がなく、余計自己嫌悪に陥ってしまうかもしれません。
なので、この問いをこのタイミングで持つことは、あまり効果がなかったようです。
そこで、ある日ベンは別の質問を自分にぶつけます。
「もし倒産したら、私は何をするだろうか?」
そして、それで思い付いた答えに自分でびっくりします。
「ラウドクラウドで動作しているソフトウェア、オプスウェアを残存資産から私が買い上げ、新しいソフトウェア会社を興す」という今まで考えたことのない、新しいアイデアが出てきたのです。
彼は自分自身に、別の質問をすることによって、自分の内側からその答えを引き出したのです。
そしてさらに、「倒産せずにそれをやる方法はあるか?」と自分に問います。
その結果、彼は最大のピンチから脱出することができました。
ケース4)「われわれが、今やっていないことは何か?」
競争力のない製品、下降する株価、疲弊したチーム。。
さらに、絶体絶命のピンチに立たされたベンは、このようにチームに問いかけます。毎週ミーティングのアジェンダにこの質問を追加して、全員で多くの時間を使っていまやっていることを見直し、評価・改善を行いましたが、それでも、「やっていないこと」こそ本来集中すべきことだった、と書いています。
人は誰でも、「やること」あるいは「やっていること」ばかりに集中し、「やっていないこと」を見過ごしてしまう傾向があります。
だからこそ、その盲点を意識に上げることで、本当に集中すべきことを見つけ、勝利します。
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このように、人は問いかけることで、自分の外側ではなく、内側から答えを引き出します。その人の潜在意識にあるものを顕在意識に上げるというプロセスを促し、気づきを与えます。
人は誰でも正解を自分の外側にあると思いがちですが、実はすでに知っていて、ただそれがあることに気づいていないだけのことが多いのです。
もし、あなたが今うまくいっていないことがあったら、単に、正しい問いを持っていないだけかもしれません。
そして、正しい問いを持つことで、今まで考えもしなかったブレークスルーが起きる可能性があるのです。
次は、リーダーとして効果的な問いを紹介します。