【シリコンバレーの投資家に学ぶ問いの力】パート2
前回は、ベン・ホロウィッツ氏の著書『HARD THINGS』を題材に、正しい問いを持つことが重要なこと、そして、うまくいっていないのは、正しい問いを持っていなかっただけなのかもしれない、ということをお話ししました。
今回は、同じ本を題材に、リーダーとして効果的な問いを紹介します。
ケース1)「相手が期待していないけど、欲しがっているものは何か?」
ベンの会社が倒産の危機から何とか立ち上がった後、売り上げの90%を占める最大顧客から既存サービスについて不満を訴えられ、契約の解除し返金するよう求められます。ベンは再び絶体絶命の窮地に追い込まれます。
そこでベンは、信頼できる部下に、「顧客がうちに期待していないけど、欲しがっているものは何か。きみの仕事はそんなワクワクする価値を見つけ出すことだ」と指示を出します。そして、その部下は見事その答えを探し当てます。
当初、部下がその答えをベンに伝えたとき、ベンは、「そんなことは不可能だ」と答えますが、「あなたは相手が本当に欲しがっているものを探してこいと言いました。彼らはそれを欲しくてたまらないのです」と部下が答えたので、ベンはそれを受け入れ、実行する決意をしました。そして見事、期限内にそれを手に入れて顧客へのサービスに追加したところ、顧客に感謝され、「あなたたちは最高のメーカーだ」と絶賛されたのです。
ケース2)「1株あたり11ドルで売る意思がないとしたら、いくらなら売るつもりなのか?」
危機を脱出したベンの新しい会社は少しずつ上向きになります。株価も底値の0.35ドルから、6~8ドルと上がり、時価総額が8億ドルを超えるようになりました。
その時、取締役会からベンに投げられた質問がこれでした。
当初ベンはチームのみんなに、この会社が大きな市場でナンバーワン企業になれるなら、売るつもりはないと約束していました。そして、彼らはナンバーワンでした。
「しかし、市場はどれほど大きかったのだろうか?チームは本当に続けたかったのか、それとも、続けたかったのは私だけだったのか。」
という長い問いかけを自分にするのです。
そしてその答えが出た後、チーム全員にも同じ問いかけをし、全員が売ることを選んだのです。
そして、戦略を練り、目標値を超える14.25ドル、総額16.5憶ドルで、買収交渉を完了させるのです。
この時、ベンはこう書いています。
“8年の歳月と自分の全生命力を投じたものを売ってしまったことが、私には信じられなかった。なぜ、そんなことをしたのか。私は落ち込んだ。私は眠れず、冷や汗をかき、もどし、そして、泣いた。そして、この売却が自分のキャリアの中でもっとも賢明な行動だったと気づいた。”
これは彼にとって大きな転機になったのだと思います。
この後、ベンは自分のような起業家を支える新しいタイプのベンチャーキャピタルというアイデアを思いつき、新しいキャリアの道を選択していきます。
しかし、最初に「いくらなら売るつもりがあるのか?」という問い、そしてさらに自分自身がそれまで真実だと信じていたことをひっくり返すような問いを持ち続けるのです。
彼がこの問いを持たなければ、また違った結果になっていたでしょう。
人生を変えるような大きな選択をするとき、今まで信じて疑わなかったような前提を覆すような問いかけをすることが必要なのかもしれません。
ケース3)「我々の会社が勝つ実力がないのなら、そもそもこの会社が存続する必要などあるのだろうか?」
ベンは、どの会社にも命がけで戦わなければならないときがある。戦うべき時に逃げていることに気づいたら、自分にこう問いかけるべきだと言います。
会社の目的は利益追求ではありません。
「利益はなくてはならない空気のようなものだ」とベンは言います。
ならば、その会社が世界に存在している意味は何でしょうか?
なぜ他の会社じゃいけないのでしょうか?
他の会社がもっとうまくできるのであれば、そこに譲った方が余計なリソースが失われないで済むのではないでしょうか。
それでも、あなたの会社が存続する必要があるという理由は何でしょうか?
ケース4)「この事態に備えることはできたのだろうか?どうすればこの状況になるってわかったのだろうか?どうすればこの状況を回避できたのだろうか?そして、どうすれば勝てるのだろう?」
実はこれは、リーダーとして、あまり良い問いの例ではありません。
実際、ベンはこのような質問ばかりをして、悶々としていました。
あなたも、過去の失敗や、起きてしまったことをあれこれ思い悩むことはありませんか?
そして、「あの時どうすれば良かったのか?」と後悔したり、「どうやったらうまく行くのだろう?」と悩んだりすることはありませんか?
そのうち、ベンは、そもそも「あなたの会社がうまく行かなくなっても誰も気にしない」 ということに気づきます。
“あれはCEOへのアドバイスとして史上最高だったかもしれない。なぜなら、あなたの会社がうまく行かなくなっても、それを気にかける人は誰もいないからだ。メディアは気にしないし、投資家も気にしないし、取締役会も、社員も、きみのママだって気にしない。そして、気にしないことが正しいのだ。
たとえ失敗の理由がどんなに立派でも、投資家のお金は1ドルも守れないし、社員一人の職も救えないし、新しい顧客をひとり連れて来ることもできない。あなたが会社を畳んで破産宣告をするときだって、少しも気分を良くしてはくれない” と言います。
ああすればよかった、こうすればよかったと後悔したり、どうすれば勝てるんだろうかと思い悩んだりしても、結局は、時間とエネルギーの無駄でしかないのです。
それよりも、すべての時間を、これから自分がするかもしれないこと、そして、今やるべきことに集中すべきだと言います。結果がどうなろうと、結局は誰も気にしない。
だから、CEOはひたすら会社を経営するしかない、とベンは言います。
つまり、リーダーが持つべき問いは、 「いまやるべきことは何か?」であるべきなのです。
そして、それに集中するしかないのです。
問いは、いま集中するべきことへ注意を向けてくれます。
良い問いを持つと、いま自分に必要な答えが導き出されるのです。
次の回は、採用に関する質問の紹介をします。