【シリコンバレーの投資家に学ぶ問いの力】パート3
第1回目はベン・ホロウィッツ氏の著書『HARD THINGS』を題材に、正しい問いを持つことが重要なこと、そして、第2回目はリーダーとして効果的な問いを紹介しました。
そして、問いを持つことは方向性を作る、ということを話しました。
第3回目は、同じ本を題材に、採用と評価に関する質問の紹介をします。
採用・募集に関連した話を聞いていると、面接官として「面接のときにどんな質問をすればいいのか?」とか、就職活動中の人から「こう聞かれたら、どう答えればいいのか?」と正解を知りたがる人が多いようですが、そもそも、お互いにそのための「準備」ができているのかを問うことは少ないようです。
そして、結果的に、自分たちの状況をよく把握していないために、どんな人が欲しいのかを理解しないまま、あるいは、どんな仕事が欲しいのかを理解しないまま就職してしまい、採用のミスマッチを起こしてしまうケースも少なくありません。
これは、会社側にとっても、仕事を探している人にとっても悲劇です。
では、どんな質問が効果的でしょうか?
ケース1 人事採用・管理: 人を募集して採用するとき、あなたが本当に必要な人材をどうやって正しく理解していますか?ミスマッチ、あるいは、優秀な社員の働く意欲を維持するために、どんな工夫をしていますか?また、採用した社員に十分な指導・教育を行うために、あなたの会社はどんな方法をとっていますか?
ケース2 One on One(個人面談): 会社の問題あるいは会社にとって良いアイデア、そして、部下をより深く知るための情報を得るためにどんな方法をとっていますか?
ケース3 自分自身の評価: 自分自身を評価するためにどのような方法をとっていますか?
これから、それぞれ3つのケースを詳しく見ていきます。
ケース1)人事採用・管理
募集と採用
ベンがアドバイスする、採用担当者やマネジャーが自分たちに対してする質問は以下の通り。
・あなたは採用する職務で活躍するために必要なスキルや素質を正確に理解していますか?
・面接を担当する社員は、面接に対して準備万端整っていますか?そして、何が目的か理解していますか?そして、定刻通りに来ていますか?
・マネジャーや社員たちは、候補者にきちんと会社を説明できていますか?
・マネジャーや採用担当者は、候補者をタイムリーにフォローしていますか?
・優れたライバル企業との人材獲得競争は、効率よくできていますか?
そして、ミスマッチを防ぐために、ベンが実際に候補者にする質問は以下の通り。
・仕事に就いて最初の1か月間で何をしますか?
・新しい仕事は、あなたの今の仕事(あるいは、今までの仕事)とどう違いますか?
・なぜ前と比べて小さい(あるいは大きい)会社に入ろうと思いましたか?
2. 評価とパフォーマンス管理
・賃金体系は社員の年齢層に照らして理にかなっていますか?
・社員を雇用する際、社員の生産性が上がるまでの期間は、本人から見て、同僚から見て、あるいはマネジャーから見てどのくらいですか?
・入社後まもなく、採用予定者は自分が何を期待されているかをどこまで理解していますか?
・マネジャーは、部下に一貫性のある明快なフィードバックを与えていますか?
・社内の文書化された実績評価の質はどうですか?
・社員たちはスケジュール通りに評価を受けていますか?
・能力不足の社員をうまく排除していますか?
・あなたが評価を下げた社員、あるいは、解雇したい社員は、自分は職務上何を期待されていたかを理解していましたか?そして、その期待を自分が達成できていないと理解していたと確信できますか?
3. モチベーション
・社員は、心躍らせて出社していますか?
・社員は、会社のミッションを信じていますか?
・社員は、毎日会社に来るのを楽しみにしていますか?
・意欲を持とうとしない社員はいませんか?
・社員は、自分が期待されていることを明確に理解していますか?
・社員は定着していますか?それとも通常より早く辞めていますか?
・なぜ社員は辞めていくのですか?
いかがでしょうか?
答えられない質問はどれですか?そして、その理由は何でしょうか?
もしかしたら、そこにヒントがあるのかもしれません。
ケース2)One on One(個人面談)
最近日本企業でも、定期的にOne one one ミーティングを導入している企業が増えていると聞きます。
しかし、この面談の目的は何でしょうか?
上司も部下も、人事部からやれと言われているから仕方なくやっていませんか?
ルーティン化や形骸化されていませんか?
個人面談の目的は、会社の問題点、従業員の抱えている私的な問題点、会社のためになる新しいアイデアなどを引き出すにある、とベンは言います。
そのために、「上司が、社員の話を聞く場」であるとしています。
具体的には、話す割合は社員が90%以上、上司は10%以下に留める必要があるといわれます。
しかし、残念ながら、多くのミーティングが逆になっていると言います。それは、本来の目的が理解されていないということが原因かもしれません。
さらに、その目的を達成することが重要で、自分事と捉えないことがポイントです。
つまり、部下の回答にいちいち反応したり、反論したり、挙げ足をとったりせずに、聞き役に徹することが肝要です。
ベンが挙げる「個人面談で役に立つ質問例」は以下の通り。
彼は、この質問例はすでにテストされていて、その価値が実証されていると書いています。
・われわれがやり方を改善するとしたら、どんな点をどうすればいいと思う?
・われわれの組織で最大の問題点は何だと思う?またその理由は?
・この職場で働く上で一番不愉快な点は?
・この会社で一番頑張って貢献しているのは誰だと思う?誰を一番尊敬する?
・きみが私だとしたら、どんな改革をしたい?
・われわれの製品・サービスで一番気に入らない点は?
・われわれがチャンスを逃しているとしたら、それはどんな点だろう?
・われわれが本来やっていなければならないのに、やっていないことはどんなことだろう?
・この会社で働くのは楽しい?
このような質問をしてみて、どんな回答が返ってくるでしょうか?
自分が考えていた答えと相手の答えと比べてみて、どうでしょうか?
あなたの思い込みが変わるかもしれませんし、変わらないかもしれません。
ケース3) 自分自身の評価
ベンは、“会社にはCEOより重要な職は存在しない。それゆえ、CEOほど周囲からの厳しい目に晒されている職もない。”と言います。
CEOとして、自分自身を評価判断するにはどうすればいいでしょうか?
ベンは、CEOを評価する際には、CEOの職務がどういうものであるか考えることが重要だと言います。
そのCEOは自分が何をすべきか明確に意識しているか。
そのCEOはなすべきことを会社に実行させる能力があるか。
そのCEOは適切に設定された目標を達成できたか。
CEOと聞くと、「私のことじゃない」と思いがちですが、ここを「私」に入れ替えてみましょう。
私は自分が何をすべきか明確に意識しているか。
私はなすべきことを実行する能力があるか。
私は適切に設定された目標を達成できたか。
いかがでしょうか?
人は誰でも、他の誰でもない自分自身の目が一番厳しいと言われます。
なので、このような質問を自分に向けて自分自身を客観的に評価することは、自分の成長を助けることになります。
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ベンは初めてベンチャーキャピタリストにCEOとして会った時、衝撃的な質問を受けます。
「きみらはいつ本物のCEOを雇うのだ?」
これを聞いて、ベンは驚きのあまり声を失ったと言います。自分は偽物のCEOだと言われ、怒りでほとんど息ができないほどだったそうです。
自分自身にCEOの能力がないと面を向かって言われたこと、さらに、薄々自分でも相手の意見が理にかなっているのではと思っていたからです。
そして、新しい問いを持ちます。
・私はどこまで成長しなければならないのだろう?
・CEOとしてのスキルを磨くための助けはどこから得られるのだろう?
・重要な人々とのコネはどうやって得られるのだろう?
そして、この問いかけから、新しいタイプのベンチャーキャピタルを立ち上げるアイデアに到達するのです。つまり、ベンチャーキャピタルが、スタートアップの抱えるハンディキャップ(CEO特有のスキルや人脈の不足)を埋めるための手助けができないか?と考え、その結果、立ち上げられた会社が、「アンドリーセン・ホロウィッツ」でした。
もしベンが、この屈辱的で衝撃的な問いを受けていなかったら、新しいベンチャーキャピタル構想は産まれていなかったかもしれません。
問いは、良くも悪くも、方向性をつくります。
できれば、その方向は、あなたが望まないものや避けたいものではなく、望ましいものや欲しい結果である必要があります。
だから、もし今うまく行っていないことがあったとしても、正しいタイミングで正しい問いを持てば、新しい道が開けます。
あなたが欲しい結果は何ですか?
そして、そのために、いま出来ることは何ですか?
さらに、そのために、いま辞めるべきことは何ですか?